ペット衛生管理の豆知識:抗生物質の重要性

細菌感染症の治療に抗生物質は必須です

ペットの調子が悪くなって動物病院に連れて行くと、よく抗生物質が処方されます。もちろん私たち人間にも抗生物質はよく使われます。でも抗生物質って、病院に行かないと手に入りませんよね。どうしてでしょう? 今日は抗生物質のお話です。

抗生物質とは本来、微生物がつくる天然の抗菌作用をもつ物質のことで、その化学構造から人工的に合成されています。抗生物質には、細菌を殺す殺菌作用と細菌の増殖を抑える静菌作用があり、この作用で病気を治します。基本、細菌にしか効きません。

抗生物質を使う目的は、病気を起こす原因となっている細菌を抑えることです。抗生物質が発見されたおかげで、医療はとても進歩しました。それまでは死亡するのが当たり前だった細菌性の病気にかかっても、抗生物質のおかげで命が助かるようになったんです。さらに抗炎症薬などの薬と抗生物質を組み合わせて使用すれば、治療効果は一層高まることがわかっています。

通常の診療では、動物にも人にも、様々な病気の治療に抗生物質が使われています。細菌感染による炎症(肺炎、膀胱炎、皮膚炎など)、細菌による二次感染のおそれのある外傷や手術後なども、抗生物質は投与されます。抗生物質はウイルスに対しては効力がありませんが、細菌との混合感染やウイルス感染後の二次感染を予防する目的で、ウイルス感染症に対しても使われます。また以前には、家畜の飼料に添加物として飼料にまぜて食べさせ、微生物を抑えて成長促進させるためにも使われていました。

ちなみに、細菌には抗生物質が効きますが、ウイルスだけに効く薬はほとんどありません。細菌は栄養や条件がそろえば単独で増殖できますが、ウイルスは宿主の細胞に入り込み、宿主の細胞システムを利用して増殖します。宿主を攻撃するわけにもいかず、特効薬のないウイルス感染症の治療には、症状に対して治療する対症療法が中心となっています。

抗生物質には、数種類の細菌にしか効かないものもあれば、幅広い多くの細菌に対して効くものあります。病原体の細菌が分離できれば、その細菌に対する抗生物質の感受性試験を実施して、感受性のある薬剤を使うことが推奨されていますが、医療の現場で治療を始めるときにまだ原因の細菌がわからないことが多いため、幅広い細菌に効力の高い抗生物質が使われることが多くなっています。

なくてはならない抗生物質ですが、病院に行って見てもらわないと手に入りません。それはなぜでしょう。細菌感染症に対して抗生物質は必須ですが、抗生物質の使用にあたっては注意が必要だからです。

ペニシリンショックのようにショック症状を引き起こすこともありますし、口から飲む場合には腸内細菌叢のバランスがくずれて下痢などがおきることもあります。また、むやみに抗生物質を多用すると、細菌がその抗生物質に対して耐性をもって効かなくなったり、抗生物質が効かない新しい細菌(耐性菌)が出現したりします。
「生死にかかわる病気のときに効く抗生物質がない!」これは医療にとって脅威であり、大きな社会問題になっています。抗生物質を安易に乱用すれば、このような事態になりかねません。

以上のようなことから、抗生物質の使用にあたっては慎重さが求められています。ペットの病気については、獣医師がその動物を実際に診察して、その都度必要な抗生物質を必要な量だけ処方することになっています。くれぐれも自分判断での使用するのはやめましょう。

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