鳥インフルエンザウイルスも変異するから怖い!
鳥インフルエンザは鳥の病気。通常は鳥から人には感染しません。ではなぜそんなに恐れられているのか? なぜ1羽でも陽性になると養鶏場の鶏を全羽殺すのか? 今回は鳥インフルエンザのお話です。
今年はまだ養鶏場での高病原性鳥インフルエンザ発生報告がありませんが、ここ数年11月頃になると、「養鶏場で鳥インフルエンザが発生し、養鶏場の鶏を全羽殺処分した」というニュースが聞こえてきます。以前は毎年ではありませんでしたが、最近は毎年のように発生報告が聞かれるようになってきました。
養鶏場での高病原性鳥インフルエンザは、令和2年度 18県52事例、令和3年度 12道県25事例と発生し、令和4年度は10月28日に岡山県の養鶏場で初発生、北海道、香川県、茨城県などで発生が続き、26道県84事例 約1,771万羽の鶏が殺処分されました。発生リスクは明らかに以前より増加しています。
※ 本記事掲載直後の令和5年11月25日 佐賀県鹿島市の養鶏場で、11月27日茨城県笠間市の養鶏場で、高病原性鳥インフルエンザが発生しました。
ではなぜ、日本では11月頃から発生し始めるのか? それは渡り鳥が本格的に日本にやってくるのがこの時期だからです。ユーラシア大陸でウイルスに感染したカモ類などの渡り鳥が、ウイルスを日本に運んでくるんです。そして羽を休める湖沼や餌場をウイルスで汚染し、糞やネズミなどの野生生物を介して、ウイルスが鶏舎へ持ち込まれるためと考えられています。
昨年も養鶏場での発生に先駆け、9月には神奈川県で野鳥からウイルスが検出され、その後も 宮城県、福井県、北海道、新潟県、鹿児島県など全国で野鳥からウイルスが検出されました。今年も10月4日北海道の死亡野鳥(ハシブトガラス)から、ついで宮城県、鹿児島県の野鳥からも高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されています。
1羽でも陽性になると養鶏場の鶏を全羽殺すのは、感染した可能性のある鶏を迅速に処分して、養鶏場から養鶏場へ感染を広げないためです。しかしもっと大きな目的は、鳥インフルエンザウイルスが大量に増えるのを阻止して、ウイルス変異のチャンスを与えないことでしょうか。
通常は人に感染しない鳥インフルエンザウイルスですが、インフルエンザウイルスはコロナウイルスと同様よく変異するウイルスです。鳥インフルエンザウイルスが人に感染するようになることは、人類にとって非常に大きな脅威となります。ご存じのとおり、1918年から翌年にかけて全世界で2000万~4000万人の死者が出したスペイン風邪は、鳥インフルエンザウイルスが変異したものではないかと言われています。もともと人には感染しない新型のウイルスですので、人類は誰も有効な免疫を持っていません。ですので、いったん人に感染する新型ウイルスができると、大流行が引き起こされます。
すでに海外では、鳥から人への感染が報告されていますし、人から人へ感染したことが疑われる事例も報告されています。鳥から感染した人は、飼育小屋や生きた鶏がいる市場を訪れたことが分かっていますし、人から人の場合は、その患者の世話をした家族など、患者と密接に接触した人への感染でした。その後感染が拡大したという報告はありませんので、まだそんなに恐れる心配はないと思いますが、鳥インフルエンザウイルスが人への感染力を増さないように、全世界が注視しています。(次回へ続く:飼っている鳥や野鳥と接するときの注意点)
<鳥インフルエンザとは>
鳥インフルエンザはA型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気です。家畜に指定されている鶏やうずらなどへの病原性やウイルスの型によって、「高病原性鳥インフルエンザ」、「低病原性鳥インフルエンザ」などに区分されています。鶏などに高病原性鳥インフルエンザが発生すると、その多くは死んでしまいます。低病原性鳥インフルエンザでは、症状が出ない場合もあれば、咳や軽い呼吸器症状が出たりすることもあります。
国内の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザや低病原性鳥インフルエンザが発生した場合、他の農場へのウイルスまん延防止を目的として、家畜伝染病予防法に基づき、発生した農場のすべての鶏の殺処分、焼却又は埋却、消毒、移動制限など必要な防疫措置が実施されます。
発生した農場の鶏や鶏卵などが市場に出回ることはありませんし、万が一食品中にウイルスがあったとしても、ウイルスは加熱すれば感染性がなくなるため、十分に加熱して食べれば感染の心配はありません。
鳥インフルエンザウイルスに感染した渡り鳥は、空からウイルスを含んだ糞を落としますので、外を歩いた長靴を消毒しないで鶏舎に入ったりすれば、ウイルスが鶏に感染してしまいます。また、渡り鳥が羽を休める湖沼などの水辺はウイルスに汚染されていますので、その水を飲んだり汚染環境にいたネズミなどの野生生物が鶏舎に侵入すれば、やはり鶏はウイルスに感染してしまいます。感染したネズミなどの小動物を捕食する猛禽類なども、渡り鳥ではなくてもこのウイルスに感染します。
なお日本では、鶏・うずら・あひるなどの家きんを飼っている方には、これらを防ぐためにも、家畜伝染病予防法で定められた飼養衛生管理基準に基づく衛生管理が義務付けられています。日本では防疫体制がしっかりしていますので、養鶏場から養鶏場へ感染がひろがることは少ないですし、養鶏場から人がウイルスに感染する可能性も非常に低いと考えられます。
とはいえ、渡り鳥から持ち込まれる環境中のウイルス量が増えると、養鶏場での発生を防ぎきれないというのが現状です。